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予防歯科への大転換時代 待ったなし!その2 予防型歯科医院予防型構築に必要な経営とは?

予防歯科への大転換時代 待ったなし!その2 予防型歯科医院予防型構築に必要な経営とは?

前回の記事では、歯科医師会が提唱する「2040年を見据えた歯科ビジョン」に基づく予防歯科の重要性と影響について詳述しました。治療型から予防型への移行は、歯科医院の経営戦略そのものを見直す必要があることは明らかです。

しかし、技術や設備の導入だけでは達成できません。そこで本記事では、予防歯科型クリニックを構築する3つの要素、すなわち「歯科医師・歯科衛生士の意識改革」「体制の変革」「患者の意識改革」を、歯科現場で院長の参謀役を務める現役の歯科事務長が解説します。

ー歯科医師・歯科衛生士・患者の意識改革

予防歯科への大転換時代 待ったなし!その2 予防型歯科医院予防型構築に必要な経営とは?

予防歯科型クリニックを構築するためには、まず経営陣の考え方を変える必要があります。特に、院長を含めたドクターたちが予防歯科の重要性を理解し、率先して変わらなければ、歯科医院全体の方針を変えることはできません。

・世代ごとの意識の違いと求められる意識改革

予防歯科の重要性を再確認し、世代間のギャップを理解しながら、患者の健康を最優先に考える意識変革が求められます。

-30代の歯科医師

30代の先生方は、比較的予防歯科の考え方を持っている世代です。彼らは予防の重要性を理解し、積極的に取り組む意識を持っています。

-40代の歯科医師

一方で、40代の先生方は「そうしないと点数が取れないからやる」という意識から予防に取り組む傾向があります。

-50代の歯科医師

50代の先生方は、若い世代と年配の世代の狭間に位置するため、治療中心で生きてきた背景を持ちながらも、時代のニーズに対応する必要性を感じているのです。この世代は、予防歯科の必要性を認識しつつも、治療中心の考え方とのジレンマに直面しています。

また、「自費治療は儲かる」という意識が強く、積極的に推し進めた世代です。たしかに自費治療は収益性が高いのは事実です。しかし、自費治療を行うこと自体がゴールではありません。自費治療は、患者の歯をしっかりと残し、健康を維持するための手段であるべきです。

-60代以降の歯科医師

60代以降の先生方は、治療が最優先という考え方を持っているため、予防歯科の重要性を理解してもらうことが課題です。彼らには「治療を最優先し、予防は二の次」という意識が根強いため、この部分の考え方を変えることが求められます。

理由は過去の成功体験です。成功体験が豊富なため、予防歯科への進出を躊躇するケースも多いように見受けられます。

・歯科衛生士の意識改革

歯科衛生士の働く動機は年代によって大きく異なります。最近の傾向として歯科衛生士が職場を選ぶ基準は主に3つあります。まず、お金、プライベートの時間、そして技術の向上です。

最も強く求められている要素はワークライフバランスです。働く時間が短く、いかに休みが取れるかが重視されています。

-ある歯科衛生士の面接事例

ある歯科医院での面接で、地方から引っ越してきた衛生士がいました。彼女は「推し活」、つまりアイドルを応援する活動を楽しむために、休みが多く取れる職場を求めていました。また、推し活グッズを購入するための十分な給与も希望しています。このような動機は、その人一人だけではなく、面接を繰り返す中で多く見られる傾向です。

衛生士たちの中には、仕事そのものよりも自分のプライベートな目的を優先する人が増えています。これは、先輩たちの働き方を見て育ってきた影響です。先輩たちは、「先生の指示に従い、がむしゃらに診療に従事する」というスタイルが一般的でした。週休1.5日やブラックな労働環境で働く姿を見て育った若い衛生士たちは、そんな働き方を嫌がるようになりました。

しかし、現在の若い衛生士の考え方が正しいわけでもありません。何が正しいのかを理解し、世代に合わせた意識と認識を持ち、予防歯科の実践に必要な労務環境と衛生士の意欲向上の両立が課題となっています。

ー予防歯科型クリニックの構築における体制の変革

予防歯科への大転換時代 待ったなし!その2 予防型歯科医院予防型構築に必要な経営とは?

予防歯科型クリニックを構築するために、次に取り組むべきは体制の変革です。

・現状と変化の必要性

私たちがよく参考にするアメリカ型診療は、歯科医師と歯科衛生士が対等に意見を交換し、患者の診療方針について議論を重ね、最善の治療法を見出すスタイルが主流となっています。

一方、日本では歯科医師がすべての指示を出し、衛生士はその指示に従うという体制が一般的です。しかし、これはもはや時代遅れと言えるでしょう。

日本歯科医師会も「2040年を見据えた歯科ビジョン」の中で、歯科衛生士の役割拡大を提言しています。衛生士の活躍がますます重要になる中で、歯科医師に負けないように勉強し続けることは当然のことです。

しかし、重要なのは歯科医師と衛生士が常に対等な立場であることです。患者の治療方針を決める際には、両者が協力して議論し合う体制を整えることが必要になります。

歯科医師は自分の考えを一方的に押し付けるのではなく、衛生士の意見を尊重し、一緒に治療を進めていく姿勢を持つことが求められます。

・予防歯科型クリニックの構築に向けて

予防歯科の重要性を無視すると、多くの歯科医院が生き残れなくなります。インプラント治療を行っている歯科医院は多く存在しますが、すべての歯をインプラントにできるわけではありません。さらに、人口減少とともに予防歯科が進展すれば、インプラント治療の症例は確実に減少するでしょう。

一部の先生方はこれに気づき、矯正治療、特にアライナー矯正(マウスピース矯正)に注力し始めています。しかし、これにも限度があり、根本的な解決策とはなり得ません。

ここで重要なのは、原点に立ち戻ることです。つまり、どのようにして患者さんの歯を健康に保つかを再考する必要があります。その答えが予防歯科です。

予防歯科が大原則であることを再認識し、これを実現するための医療従事者の意識改革と、予防重視の体制への転換が欠かせないのです。

ー患者の意識改革

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予防歯科型クリニックを実現するためには、患者の意識改革と患者層の再構築が必要です。どんなに優れた予防歯科の体制を整えても、「痛くなったら行く」という意識を持つ患者ばかりでは、その効果は限定的になるからです。

そこで、歯科医院の方向性を明確に外に発信し、徐々に患者層を入れ替えていく必要があります。理想的な患者層をどのように獲得するか、これが予防型に変えていく上で重要になっていきます。

・システム・仕組みとしての予約の取り方改革

予約システムの改革も欠かせません。たとえば、よく「先生の予約がいっぱいで取れない」という声を聞きます。これは、予約の組み方が適切でないだけでなく、患者のニーズを無理に当てはめようとしたり、そもそも患者が予約を取って帰らないことが原因です。

そこでまず、きちんとした予約ルールを設けることが重要です。患者に対して予約の重要性を教育し、予防歯科型クリニックとして定期メンテナンスを推奨します。

-1年先までの予約を取る「仕組み」

とある歯科医院では、1年先の予約を取る取り組みを実施しています。この方法では、メンテナンス期間が決まっている患者に対して、4ヶ月に1回の予約を年間3回先押さえするというものです。年間予約を取ることで定期的なフォローアップが可能になります。また、不具合があればその都度来院してもらい、早期に対応することも可能です。

このシステム(仕組み)を導入することで、患者さんは定期的に来院する習慣が身につき、予防の意識が高まります。こうした予約の取り方をシステム・仕組みとして導入して徹底することで、キャンセル率を大幅に低減することができます。

キャンセル率が高い歯科医院は、治療主体の方針を取っているか、患者教育が不足している場合が多いです。予防歯科を推進するためには、まず患者教育を徹底し、予約の取り方・システムとしての「仕組み」を整備することが必要です。

・良質な患者の育成

良質な患者とは、定期的にメンテナンスに来院し、予防歯科の理念を理解して実践してくれる患者です。こうした患者を育成するためには、歯科医院全体で意識を変え、患者が来院しやすい予約の取り組みと組み方を考える必要があります。良質な患者が増えると、自然とキャンセル率は低下します。

そんなはずがない。そんなことでキャンセルが自然低下するのか?と思う先生方も多数いると思います。実際良質な患者を育成しているクリニックではキャンセル率が限りなくゼロに近いクリニックは多数存在します。

まとめ

予防歯科への大転換時代 待ったなし!その2 予防型歯科医院予防型構築に必要な経営とは?

予防歯科を実現するためには、歯科医師・歯科衛生士・患者の意識改革と、体制の変革が必要です。

歯科医師や歯科衛生士は、治療中心の考え方から脱却し、予防重視の姿勢を身に付ける必要があります。世代間のギャップを認識しながら、意識改革を進めることが求められます。

一方、患者に対しても、定期検診の重要性や予防ケアの意義を丁寧に説明し、理解を深めてもらわなければなりません。

加えて、予防歯科型クリニックへの転換には、経営体制の見直しも必要です。予約システムの改革、スタッフ教育の徹底など、あらゆる側面で抜本的な変革が求められます。

次回は、予防歯科型クリニックへの転換が経営上にもたらすメリットについてお話しします。

記事の監修者


まるごと事務長 担当コンサルタント M

年間医院収入2億円 スタッフ数30名の現役事務長

人材採用、離職率改善、教育体制づくり、オペレーション改善、助成金活用によるコスト削減などを得意とし、訪問診療の立ち上げ・採算化まで、院長の右腕として経営面の実務を幅広く担っている