前編では、受付は歯科医院の収益を大きく左右する、とても重要なポジションであることをお伝えしました。後編では、受付スタッフに求められるスキル、受付業務の効率化が医院の収益アップにつながる理由などについて解説していきます。
今回紹介する受付業務の効率化のポイントや求められるスキルを参考に、受付業務の改善に取り組み、歯科医院の経営をより良いものにしていきましょう。
受付スタッフに求められる7つのスキル
ここでは、受付スタッフに求められる7つのスキルについて解説します。
医院経営を支える事務処理能力
医院によって多少の違いはあるものの、受付業務の基本的な流れは共通しています。保険証の確認から誘導、診療後の会計、次回予約まで正確かつ迅速な事務処理能力が求められます。
患者の心を掴む接遇力
受付業務は単なる事務作業ではありません。いかに付加価値をつけられるか、その鍵となるのが「接遇」と「コミュニケーション」です。
患者との関係性が築けているクリニックとそうでないクリニックには、決定的な違いがあります。それは、患者さんからのお土産や手土産の有無です。
SNSで人気の歯科医院の投稿を見ても、患者さんからのお菓子やプレゼントを紹介する場面が多く見られます。特に手作りのお菓子などは、患者との親密な関係を築けている証と言えるでしょう。
患者が何も言わずとも、あるいはお願いしたわけでもないのに手土産を持ってきてくれる。そんな関係性を築ける受付スタッフは、「できる受付」の目安の一つで、医院の「武器」とも言えるでしょう。
メンテナンスへの積極的な誘導
治療後のメンテナンス予約は、歯科医師や歯科衛生士が促すことが多いですが、「また今度電話する」と先延ばしにされるケースも少なくありません。
しかし、患者と信頼関係を築けている受付スタッフであれば、「〇〇さん、次回のメンテナンスはいつ頃がよろしいでしょうか?」と、治療終了後に自然な流れで提案できます。その場で次回の予約を確定できれば、患者の「また今度」という言葉を未然に防ぎ、来院につなげることができます。
これこそが、生産性の高い受付と言えるのではないでしょうか。
歯ブラシなどの販売促進
物品購入の誘導も受付の重要な役割です。歯科衛生士が処方した歯ブラシやデンタルフロスなどを、患者がうっかり買い忘れてしまうことがあります。
受付から「〇〇さん、歯ブラシは新しいものをお使いですか?」などと声をかけることで、処方漏れを防ぎ、患者の口腔ケアもサポートできます。
キャンセル防止のためのサポート
患者のキャンセル予防のために、「〇月〇日のご予約ですが、ご都合はいかがでしょうか?」といった確認連絡は欠かせません。
腕の良い歯科衛生士であれば予約管理も上手ですが、残念ながらそうした衛生士は多くありません。だからこそ、受付が患者をコントロールするアポイント誘導が重要になってきます。
たとえば、患者の家族構成や趣味、最近あった出来事などを話題にすることで、患者は「自分のことを理解してくれている」と感じ、信頼感を抱きます。患者が受付スタッフに近況報告をするためにわざわざ来院するといった「動機」をというものを作ってくことで安定した来院につなげることができるのです。
歯科医療の基礎知識
患者の質問に適切に答えたり、歯科医師や衛生士との連携をスムーズに行うためにも、ある程度の医療知識も求められます。
たとえば、患者から「この薬を飲んでいるのですが、治療に影響はありますか?」といった質問を受けた場合、受付スタッフが基礎的な医療知識を持っていれば、適切な回答ができます。
歯科知識だけでなく、全身疾患や薬に関する知識も積極的に学び、患者さん一人ひとりに合わせた対応をしていくことで、より質の高い医療サービスを提供できます。
受付の電話で初診獲得が決まる?
電話対応は、丁寧であることはもちろん重要ですが、それ以上に情報収集力と提案力が重要です。
たとえば、患者の主訴(何が痛いのか、どこが痛いのか、どう痛いのか)だけでなく、「大きな病気にかかったことはないか」「現在服用している薬はあるか」といった情報も確認します。
もし患者が心臓病を患っている場合は、血液をサラサラにする薬を服用している可能性が高いので、必ずお薬手帳を持参するよう伝えます。
また、歯茎が腫れて痛いという場合は、歯周病の可能性を考慮し、初診時は応急処置を施すことを説明しつつ、歯周病治療にはある程度の期間が必要であることを事前に伝えておきます。
このように、患者の状況を詳しく聞き取り、適切な情報を提供することで患者は安心し、他の歯科医院を探す手間を省こうと考えます。結果として、初診獲得率の向上に繋がるのです。
受付の業務を効率化しよう
受付業務の効率化は、患者の待ち時間短縮や受付スタッフの負担が軽減でき、医院全体の生産性向上につながります。ここでは、受付業務を効率化する5つのポイントをご紹介します。
- 自動釣銭機や自動精算機の導入
- カルテ整理
- 物品整理
- 事務用品の整理
- 保険証関係の確認作業
受付業務の効率化について、5つのポイントを挙げていますが、1つ注意が必要です。保険証がマイナンバーカードと一体化する動きが進んでいるため、保険証確認作業がデジタル化していく可能性があります。
しかし、後期高齢者医療被保険者証や障害者手帳など、マイナンバーカードだけでは確認できないケースも存在します。そのため、保険証確認作業は依然として煩雑さが残り、マニュアル化による効率化が重要となるでしょう。
釣り銭の計算は、自動精算機を導入することで解決できます。カルテ整理については、売り上げ不振の歯科医院ではカルテ管理がずさんな傾向があります。カルテを見れば、受付に問題があるかどうかが分かります。
物品管理も同様です。整理整頓されていない受付は、不要な在庫を抱えていることが多いです。受付を整理することでオペレーションだけでなく、コスト面でも改善が見込めます。
受付に求められる役割を果たせるようにするためには、体制を整える必要があると言えるでしょう。
受付業務の効率化でコスト削減効果が期待できる
受付業務の効率化は、カルテを探す時間や在庫整理による時間の削減など、細かい部分での改善が積み重なり、大きなコストカットを生み出します。
たとえば、釣り銭の計算にかかる時間を考えてみましょう。1日のうち午前と午後それぞれ20分以上、2人の受付で1日に1時間半近く釣り銭の計算に費やしてしまいます。もし診療が1ヶ月に20日間で考えた場合、1か月に30時間、時給換算すると年間50万~60万円のコストに相当します。
自動釣銭機を導入すれば、この無駄な時間を大幅に削減できます。150万円の釣銭機でも、3年で元が取れる計算です。補助金や助成金を活用すれば、さらに導入コストを抑えられます。
ここで一例として、ある歯科医院の成功事例を見てみましょう。この歯科医院では、1日に100人近くの患者が来院していましたが、受付スタッフを最大4~5人配置していました。しかし、業務効率化を進めた結果、2人の受付スタッフで対応できるように。この人員最適化により、年間660万円もの人件費削減を実現したのです。
受付業務の効率化と適切な人員配置で歯科医院の収益を最大化を目指せます。
まとめ
受付業務の効率化や質の向上は、歯科医院の収益に大きく影響します。受付スタッフが、患者対応や付加価値の高いサービスに集中できるようになれば、「コストを生み出すだけの非生産部門」ではなく、「収益を生み出す重要な部門」へと変化します。
受付業務の効率化、スタッフの育成、適切な人員配置など、受付業務の改善に取り組むことで歯科医院の経営は大きく改善されるでしょう。
記事の監修者
まるごと事務長 担当コンサルタント M
年間医院収入2億円 スタッフ数30名の現役事務長
人材採用、離職率改善、教育体制づくり、オペレーション改善、助成金活用によるコスト削減などを得意とし、訪問診療の立ち上げ・採算化まで、院長の右腕として経営面の実務を幅広く担っている