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歯科医院に「事務長」は必要?歯科事務長の役割や仕事内容、採用する際のポイントを解説

歯科医院に事務長は必要?歯科事務長の役割や採用するべきかのポイントを解説

売上や患者数と比例し、歯科医院の運用や経営に関する業務は複雑化します。おもに歯科医院における運用や経営に関する業務を、院長に代わって執り行う役職が「事務長」です。この記事では、歯科医院における事務長の役割や仕事内容、採用のポイントについて解説します。

成功・失敗両方の歯科医院の事務長採用事例についても紹介していますので、「診察以外の経営業務の負担を感じている」「事務長の採用が難航し悩んでいる」院長の方は、ぜひ参考にしてください。

歯科医院における「事務長」とは?

歯科医院の規模や業務量によっては、事務長という役職が設置される場合があります。事務長の役割や院長との違い、具体的な仕事内容について解説します。

歯科事務長の役割

歯科事務長とは、歯科を含め個人クリニックや病院などの医療機関における、経営の執行責任者の位置付けです。医療法人としての最高責任者が院長であるのに対して、経営の責任を事務長が負うことになります。

個人医院や院長含めたスタッフ5名程度までの小規模クリニックの場合、経営に関する業務も事務長を置かず院長が兼務することが多いです。「第20回医療経済実態調査医療機関等調査」によると、院長含めスタッフ5名程度の規模、売上5000万円程度の平均的なクリニックでは、事務局として勤務する人数はごくわずかで、正確な人数も把握されていないという結果が出ています。

一方、平均以上の売上や患者数を有する歯科医院の場合、経営に関する業務量は増加し院長のみでは対応しきれなくなります。そのため、歯科医院の健全な運用および経営のために、業務を行う事務長の設置が検討されることになります。

歯科事務長が歯科医院の経営に関する業務を担うことで、院長や歯科医師、歯科衛生士などは、歯科の専門職として「治療」や「口腔ケア」「予防歯科」など得意な業務に専念することができるでしょう。

歯科事務長の仕事内容

歯科事務長の仕事内容は、「医療専門職従事者以外でも対応可能な業務」です。そのため、歯科事務長には歯科医師や歯科衛生士のような医師免許や国家資格は求められません。歯科事務長の仕事内容は幅広く、おもに以下の5つの分野に分けられます。

  • 経営への戦略業務(院長の参謀役)
  • マーケティング業務
  • マネジメント業務
  • バックオフィス業務全般
  • その他

それぞれ分野ごとに、歯科事務長の具体的な仕事内容を解説していきます。

経営戦略業務

歯科医院の院長は歯科医師であると同時にクリニックの経営者でもあります。大学の歯学部で歯科治療や医療に関することを学んでいても、経営に関することは学んでいません。事務長は経営の参謀やブレーンとして、経営に関する以下のようなフォローも行います。

  • 経営戦略へのサポート
  • 競合歯科医院の調査や分析
  • 経営判断に必要な情報収集
  • 経営数値の管理
  • 院長の経営決断の実行

マーケティング業務

新患の集客や既存患者の定着のために、以下のようなマーケティング業務を行います。

  • ホームページの作成、コンテンツの管理や更新
  • 広告代理店などの関連業者との打ち合わせや依頼
  • 広告の運用と管理
  • 提携先の開拓
  • イベントの企画
  • 新患へのフォロー(院長や看護師に言いにくいことの相談受付など)
  • 既存患者へのフォロー(満足度調査やアンケート、相談受付など)

マネジメント業務

歯科医院の健全な運営のために、以下のマネジメント業務を行うのも歯科事務長の仕事です。

  • 院内ミーティングの企画と実施
  • スタッフへの仕事分配と進捗管理
  • 現場スタッフへのフォローや離職防止への取り組み
  • 院内の環境改善

バックオフィス業務

バックオフィス業務とは、顧客(歯科医院の場合は患者)と直接かかわらず、社内(院内)で完結する業務全般を指します。歯科医院におけるバックオフィス業務は、以下のものが該当します。

  • 人事(求人手配、説明会の手配、採用面接、スタッフの教育、有給管理、福利厚生など)
  • 労務(勤怠管理・給与計算など)
  • 経理(経費、売上金、小口管理、売上管理、帳簿への記帳など)
  • 広報(WebページやSNSの管理含む)
  • 事務処理(データ管理、書類作成、在庫管理、カルテ管理など)
  • 外部交渉(銀行、行政機関、税理士、社労士、提携医療機関との連携や調整)
  • 総務・秘書(お礼状などの送付、宿泊先の手配、院長のスケジュール管理、院内外のイベントの企画や調整、院内の故障個所の点検や対応など)

その他

以下のような歯科医院に付随するその他の業務も、歯科事務長が行う場合があります。

  • 受付業務(保険料や診察券の確認から会計まで)
  • 診察や治療の補助(診察への案内、患者への声掛けなど)
  • 自費コンサルティング(自費診療の提案からクロージング)
  • 院内の掲示物や患者への配布物の制作
  • レセプト業務(不備や取り漏れのチェック)

歯科事務長は歯科医院に必要か?

歯科医院の治療や医療行為以外の業務は、事務長でなくても院長が兼務する、または院長夫人や歯科助手などのスタッフでまかなうことも可能です。歯科事務長が必要かどうかは、歯科医院の状況や経営方針によっても異なります。

歯科事務長が必要なケース、いなくても問題のないケースを以下にまとめました。

歯科事務長が必要なケース
  • 売上が5000万円以上ある
  • 今後医院をさらに拡大させたい
  • 人材に関する悩み全般を解決したい
  • 訪問診療など新たなことにチャレンジしたい
  • 診療以外の業務の負担が大きい
歯科事務長がいなくても問題ないケース
  • 開業して間もない
  • 売上は年間5000万円以下で規模拡大や業績UPの希望はない
  • 院長が高齢など閉院間近
  • 外部の人間を入れたくない
  • 負担はあっても院長が自分ですべての業務を行いたい

まとめると、今後医院の事業規模や売上の拡大を検討しているときや、新事業をはじめたいとき、すでに運用や経営などの業務まで手が回らないといった状態の時には、歯科事務長の存在は必須となります。事務長を設置することで、院長は治療や診療、今後の経営方針の決定などの本業に注力できるでしょう。

事務長を雇用するメリットとデメリット

歯科医院に事務長を雇用することで、業務上はもちろん組織や院長自身にも多くのメリットが得られます。一方で事務長を配置することで起こる可能性のあるデメリットにも注意しなければいけません。メリット・デメリットそれぞれについて解説していきます。

メリット1:院長が本業に専念できる

事務長が業務を行うことで、院長は以下のような本業に専念できます。

  • 診療や診察
  • 勉強会やセミナーの参加など臨床技術のスキルアップ
  • 医院の経営方針の決定

ほかにも院長が業務や時間に追われることが少なくなるため、精神的な安定を得られる、プライベートの時間を増やせるなど院長自身へのメリットも得られるでしょう。

メリット2:歯科医院としての組織力の強化

事務長を設置することで、院内の各種業務の内製化が進められます。院内の仕組みが作られることで、問題解決への時間の短縮、組織の活性化など歯科医院の組織力の強化にもつながるでしょう。

メリット3:人事面での問題解決や優秀な人材の確保

事務長は院長と院内のスタッフの間に立つ橋渡しの役割もはたします。そのため院内でのコミュニケーションが円滑になり、職場環境の改善につながるため離職率の低下にも貢献するでしょう。

事務長は採用や人事などのバックオフィス業務も担います。その結果、採用後のミスマッチの防止や適切な業務量の分配、人員配置が実現します。事務長が人事としても機能すれば、離職率の低下を防止し、人事面での問題解決を迅速にし、結果的に優秀な院内スタッフの確保にもつなげられます。

メリット4:利益の向上

院長が診療や診察に集中できる環境、さらに組織力が高く優秀なスタッフがそろっている歯科医院は、おのずと患者さんが集まります。診察件数や自費診療率の増加にもつながるため、より多くの利益も上げられるでしょう。

メリット5:コストダウン

事務長は院内の経費を見直す役割も担っています。経費削減や前述の内製化により、院全体のコストダウンの実現も可能です。

デメリット1:コストがかかる

事務長を設置することで、固定の人件費がコストとして発生します。事務長の給与は歯科医院のある地域によっても異なりますが、事務長候補の場合は年収300万円~、事務長の場合は年収500万円~が目安です。さらに事務長の採用のための採用活動のコスト、院長の右腕として活躍できる事務長に育てるまでの教育コストもかかります。

デメリット2:採用のミスマッチ

事務長となる人材を採用後、スキルや人柄などの面でミスマッチが起きると早期離職の原因となります。早期離職となると事務長の採用や教育にかけたコストは無駄となってしまいます。また、離職はしなくても既存のスタッフとのコミュニケーションがうまくいかないなどの理由で、逆に院内の人間関係や職場環境が悪化してしまうこともあります。

歯科事務長を採用する際に気をつけるべきポイント

歯科事務長を採用することで固定のコストがかかるほか、ミスマッチによって早期離職をしてしまう、または院内の組織体制に悪影響となってしまうこともあります。歯科事務長の採用メリットを最大化するために、採用時に気を付けるべきポイントを覚えておきましょう。

採用は非常に難しいことを前提としておく

事務長の採用はかなり難しいのが現状です。事務長に求められるスキルは営業力や提案力、コミュニケーション能力と多岐にわたります。さらに、経理、人事、総務などのバックオフィス業務を理解し遂行するには、業務経験も求められます。たとえば営業マンとして優秀だったとしても、人事に関するキャリアがなければ歯科事務長として適任とは言えません。

歯科事務長として適した人材、優秀な能力を兼ね備えた経験者はほぼいません。自院の力だけで歯科事務長を採用するのはとても難しいことを予想し、採用活動を進めるようにしましょう。

採用するなら、相当の採用コストをかける

歯科事務長を自院の力のみで採用するのは難しいです。そのため、求人広告媒体やWeb広告などの外部の力も借りることになります。自院の持つ課題解決を実現する歯科事務長を採用するためには、相当の採用コストをかける必要があるのを覚えておきましょう。

たとえば無料の求人サイトよりも、採用コストをかけてヘッドハンティングを前提としたハイキャリア転職のエージェントを利用した方が、歯科事務長としてのスキルや人柄を兼ねた優秀な人材が見つかる可能性は高くなります。採用コストをかけ、適した媒体や採用手法を選ぶのが重要です。

研修は必ず行うこと

歯科事務長は歯科業界に対する理解も求められます。特に他業種より歯科事務長を採用する場合は研修を必ず行いましょう。研修によって最低限の歯科知識、業務内容、医療業界の特性の理解につなげられます。医療従事経験があっても、歯科業界未経験者も同様です。

また材料業者のOBなど歯科関係者であっても経理、総務、人事などの経験がなくては事務長業務を円滑に進めることはできません。研修とともに実際に歯科助手業務を経験させるなど、現場に立たせる教育を行う必要もあります。

依頼したい仕事範囲を明確に伝えること

以下の理由により、歯科事務長として何をしてもらうのかを明確にする必要があります。

  • 一般スタッフと業務を差別化するため
  • 医院の課題と解決策を明確にするため
  • 情報共有を徹底するため
  • 業務上での乖離を防ぐため

事務長は一般スタッフではなく、医院の業務執行責任者です。経験上DA業務や受付業務ができることも必須ですが、DAや受付業務は事務長の主業務ではありません。管理監督者としての業務を切り分ける上でも、業務内容を明確にするのは重要です。

「診療以外の業務負担が大きい」「新患数が伸び悩んでいる」「院内スタッフの人間関係が悪化している」など、歯科医院それぞれで抱える課題は異なります。自院の持つ課題の解決も、事務長の仕事のひとつです。自院の持つ課題と解決策を把握するためにも、事務長が業務として課題を認識し、ミッションとして遂行していくことが求められます。

院長と事務長の考え方や方向性が異なると、歯科医院の運用や経営上で問題が発生します。事務長に院長の考えや方向性を伝え、認識のすり合わせをするうえでも任せる業務の内容を明確にするのは重要です。

筆者の経験上も、院長と事務長が毎日1時間以上の会話や打合せを行っているクリニックとそうでないクリニックで比較するとトラブル発生度合いは大きく異なります。徹底的に情報共有や打合せをしている場合、各種人材の退職率低減にもつながります。

自院とのマッチング

採用時のミスマッチを防ぐためにも、以下のポイントをチェックしておきましょう。

  • 事務長に必要な業務のスキルはあるか
  • 歯科業界について理解しているか
  • 自院のスタッフとうまくやれるか

歯科事務長は「なんでも屋」とも取れるように、幅広い業務へのスキルや知識が必要です。たとえば人事経験、マネジメント力、経営コンサル力いずれも必要となり、どれかひとつに秀でているだけでは事務長としては役に立ちません。

歯科の事を理解していることも重要です。医療知識や業界に関することからトレンドまで「歯科」をよく分かっている人材を探す必要があります。

自院の既存スタッフとうまくやっていけるかもミスマッチ防止のポイントとなります。既存スタッフの年齢層、性別などをふまえて人柄も見極めましょう。セクハラやパワハラなどへの理解や、深入りしすぎずどんなスタッフでも浅く広く付き合えるかなどもポイントとなります。

筆者が経験上感じた「事務長」として採用したい人材のポイントは以下の通りです。

  • レスポンスが速い
  • なんでもできる
  • 3つの提案ができる
  • 遊び心がある
  • 医療従事者らしくない

条件を理解、共有する

事務長が適切に業務を遂行するためには、権限を持たせる必要があります。以下の5つの条件を院長(経営者)、事務長が理解し、共有することが重要です。

  1. 一部権限を委譲する
  2. 10万円以下の決裁権を事務長が保持する
  3. 1日1時間程度は打合せすること
  4. なんでも屋である事務長ですが、診療補助と切り分けて考える
  5. 経営側の人材であることを明確にする

また、事務長はスタッフと経営者の間に立つ中間管理職です。ほかのスタッフにも事前に事務長の権限や立場について共有しておくことが、採用した事務長の早期離職防止にもつながります。

歯科事務長の採用方法

自院の持つ課題解決に貢献する事務長を採用するためには、ふさわしい能力やスキルを持つ人材と出会うために採用方法も工夫をしなければいけません。歯科事務長の採用に活用できる、具体的な方法について解説します。

オンラインでの求人情報

オンライン上で歯科事務長を募集するための方法には、以下のものがあります。

  • 総合型求人サイト(リクナビ、dudaなど)
  • 特化型求人サイト
  • 求人検索エンジン(indeedなど)
  • ハローワークウェブサイト
  • 自院の公式サイト

オンライン上で求人募集ができるため、幅広い人材と出会えるのがメリットです。筆者の経験上、たくさんの求職者と会うことが重要だと感じています。学歴は重視せず、経験、歯科で事務長として勤務する場合どんなことができそうかを重視し、人材を選びましょう。

自院のサイトに採用ページやサイトを設ける方法もありますが、採用ブランディングに関する知識やスキルなどが必要です。採用ブランディングに関する知識やスキルがなければ、他の求人サイトから連携して採用サイトに誘導する、採用活動を代行してくれるサービスを利用するなどが選択肢となります。

紹介

以下のような紹介による採用活動は、ピンポイントに求めている人材を発掘しやすい、知人や提携先からの紹介ならコストがかからないなどのメリットがあります。

  • 知人からの紹介
  • 就職、転職エージェント
  • 医療関係紹介会社

人材紹介を活用する場合、紹介可能な人材がかならずしもいるわけではない点や、エージェントなどのサービスを利用したときはコストが高くなるデメリットがあります。さらに、紹介を受けた人を採用しなかった、または採用したものの早期退職をしてしまった場合は紹介してくれた人との関係が悪化してしまうリスクもあるのを覚えておきましょう。

歯科事務長の採用成功事例

事務長を採用したことで利益のアップや人事問題の解決などを実現した、歯科医院の成功事例を紹介します。

事例1

売上1.2億円のクリニック
Dr2名 DH6名 DA1名 受付1名
1日来院患者数:45名
自費率20%

クリニックの課題
今までDHの離職率の高さ、採用難で伸び悩んでいた。
自費率UPを狙うもDHの自費提案力欠如で伸び悩んでいた。

採用した事務長プロフィール
営業経験5年、人事経験なし、前職では女性社員比率55%の企業で勤務。
※事務長育成プログラムを6カ月間受講(業務をしつつ受講)

採用後

事務長による集患営業(自費患者)と患者への自費提案により自費率を30%まで上昇。クリニックの就業規則や勤怠管理の制度を構築し、適正化。有給休暇や福利厚生の見直しをした結果、2年連続退職者ゼロを実現した。

事例2

売上1.1億円のクリニック
Dr1名(非常勤1名) DH6名 DA2名 受付1名
1日来院患者数:47名
自費率30%

クリニックの課題
DH年間離職率80%、福利厚生が悪い、お局DH(A)によるいじめの発生。
院長も把握しているがAが長年勤務のため、言いにくいので放置気味だった。

採用した事務長プロフィール
人事キャリア8年、営業経験なし。前職では大手化粧品メーカーに勤務。

採用後

長年の人事キャリアを活かして、各種ルールを制度化。なんでも反対するAを排除するのではなく、積極的に取り込む姿勢で接する。結果Aを巻き込んで福利厚生の充実を実施。
他のDHとAの間に入り、コミュニケーションの充実とともにAを1人にしないことでいじめを防止。
Aがすすめる他のDHを「士長」に抜擢。その指導役に事務長とAを配置し、体制を変更。2年後退職者はゼロに。さらに人事制度・福利厚生見直しにより新しいDHも採用でき、売上アップを実現。

歯科事務長の採用失敗事例

歯科事務長を採用したものの、期待していた成果や結果が出せないことがあります。歯科事務長採用の失敗事例からは、自院が歯科事務長を採用する際の注意点や重要ポイントを学べます。

事例1

元営業マンを歯科事務長として採用した事例です。

採用後

営業力により集患はできているものの、集めることに注力し過ぎた結果患者の離脱率が増加。患者と医院のマッチ度合を考慮しない集患や、少し押しの強い自費提案が原因となり、患者の継続定着率が悪化する。営業以外の業務は苦手で、他業務の改善や効率化にもつながらなかった。

新患や自費率が上がり一時的に売上が上がったとしても、既存患者として定着させるための取り組みを行わなければ、売上や患者数は減少していきます。さらに、営業力だけでなく歯科事務長としての業務を任せられるだけの能力やスキルを持っているかどうかも、重要なポイントです。

事例2

人事キャリアを持つ人材を歯科事務長として採用した事例です。

採用後

人事業務への改善や効率化は進むものの、マーケティング業務へのスキル不足により院長が希望する「増患」は実現せず。また事務長のDHからの信頼が大きくなりすぎてしまい、院長との関係性が悪化し、最終的には退職。

事例1と同じく、特定のスキルはあるものの期待する業務のスキル不足から、新患の集客は実現しなかったケースです。また、既存スタッフとの距離感が近すぎることで、院長との関係悪化を招いてしまいました。院内の人材とほどよい距離を保てることも、事務長には求められます。

事例3

中堅機械メーカーからの転職者(女性)で、人事・総務・企画部門経験者を採用した事例です。

採用後

歯科業界を理解せず、一般企業のやり方を推し進めた結果他のスタッフとの間に軋轢が発生。
数字面しか見ない、医療と一般企業の違いを考慮せず強引に改革を進めた結果DH全員より退職を迫られる。

歯科事務長は、業務をこなせるスキルのほかにも歯科業界に関する理解も必要となります。また、歯科医院の状況に合わせた対応ができる柔軟性も求められます。学歴やキャリアだけを見るのではなく、事務長としてふさわしいスキルや人柄を見るのも必要です。

歯科事務長の経験から見た事務長採用のポイント

事務長を7年経験している筆者が考える、事務長の必要な能力を以下5つの項目にまとめました。

  1. 若いスタッフに対しても「笑顔」で応じる。呼び捨てなどで呼ばれたとしても気にしない
  2. 全スタッフと均等に、分け隔てなくコミュニケーションを取る。院長も含めて全員に同じ態度で臨む
  3. 事務長である前に皆と同じイチ歯医者のスタッフ立場で業務を行う
  4. 全業務の中で、DH依頼の業務が最優先
  5. 説教、DHへアドバイスはなるべくしない。「聞く」と「提案」に徹する

歯科医院ごとに抱える悩みや課題は異なり、事務長を採用することが問題解決に繋がるとは限りません。各業務における専門性や経験・実績も必要ですし、スタッフや経営者との関わりも考えなければいけません。院長として「自分の右腕」を探すのはとても大変なことです。

一方で現場業務や働くスタッフとは無関係であるという意識から、現場を知らず、治療や診療方法、症例も知らず「経営目線」しかないコンサルタントに事務長職を業務委託してもうまくはいかないでしょう。

自院の課題解決に貢献する歯科事務長を探すには、現場・治療・歯科業界の特性を理解し、各スタッフと密にコミュニケーションを取り、個々の歯科経営課題や状況に合わせ「実務」支援をしてくれる支援先を探す方が得策です。

歯科業界の支援先は、営業代行会社、歯科経営アドバイザリー、事務長代行会社などさまざまな支援会社があります。依頼する際に以下の3つをポイントを踏まえて依頼先を探しましょう。

  • 現場で診療補助など実務実績はあるか
  • 歯科治療の内容(例えば治療計画)を把握しているか。具体的な症例経験への質問
  • 現場オペレーションに対する、具体的な課題抽出と改善策の提案

まとめ

歯科事務長を配置することで業務の効率化や負担軽減、利益の向上など多くのメリットが得られます。ところが事務長としてふさわしい能力を持ち、自院に合う人柄の人材の採用は非常に難しいです。採用活動や採用後の給与を含めたコスト、人材ミスマッチやスタッフとの不仲などのリスクも考えられます。

自院の抱える課題解決には、歯科事務長の採用だけでなく、負担と感じている業務を外注(アウトソーシング)する、コンサルティング会社や業務代行会社などのパートナーを探し、実務の支援を受けることも選択肢となります。

「まるごと事務長」では、今までの事務長経験から企業診断ならぬ「歯科医院経営診断」が可能です。事務長経験を基に作った診断マニュアルに沿って診断することで、貴院の抱える課題と解決策をご提案いたします。ぜひご検討ください。

記事の執筆者

現役歯科事務長 M

年間医院収入2億円クリニックの現役事務長
集患・増患などの攻めの施策から、コストダウン・助成金活用・人材採用・事務バックオフィス全般まで統括し、院長の参謀役として活躍中。その経験とノウハウを活かし、数医院限定で「まるごと事務長」のアドバイザーとしてコンサルティング支援を行っている