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歯科医院が経営難に陥る理由とは?失敗例や安定経営のポイントを解説

歯科医院が経営難に陥る理由とは?失敗例や安定経営のポイントを解説

歯科医院の施設数はここ10年間で大きな変動がないものの、平成29年を境に新規開業件数と廃業件数が逆転しています。医院の存続に不安を感じる先生方も多いのではないでしょうか。

本記事では、現役事務長が現場目線で歯科医院が経営難になる原因や、経営を安定させるポイント、また開業の失敗例を取り上げています。

1.歯科経営は現実的に厳しい?経営実態を徹底リサーチ

1.歯科経営は現実的に厳しい?経営実態を徹底リサーチ

令和3年度の医療経済実態調査によると、歯科医院の医業収益は個人経営の場合、年間4,500万円前後でした。つまり、全国平均では1院の平均売上が月400万円程であり、延べ約400人(1日20~25名)の患者様が来院する計算になります。この数字は月損益計算上、赤字と黒字の微妙なところかもしれません。

2019年12月頃から新型コロナウイルスが現れ、歯科医院の経営は厳しさを増していると推察できます。厳しい歯科業界ですが「正しい経営戦術と戦略」「正しい行動」により、十分な売上を確保している歯科医院も多数存在します。では、十分な収益を得る医院と、そうではない医院の違いは何でしょうか?

次の章で、歯科医院が収益を確保できず、経営難となってしまう要因を探っていきましょう。

2.歯科医院が経営難に陥る原因とは

歯科医院が経営難に陥る原因とは

歯科医院が不安定になる主な原因は、「患者数の減少」「経費の支出の多さ」の2点です。この他にも、①設備・技術が更新されない、②スタッフが定着しない・採用できない、③ライバルの増加、④経費を正しく理解していないなど、様々な原因があります。

上記の要因が複雑に絡み合った結果、新規の患者様が増やせず経営難になっていると考えられます。本章では、患者様の減少と経費の支出に焦点をあて、解説します。

2-1.患者数を増やす取り組みができていない

患者様が増えない理由を、下記の5つの面から考察していきましょう。

設備

開業して数十年が経過し、最新設備が導入できていない

技術面

今まで集客数を確保できているため、高い費用を捻出して最新医療を習得していない

高齢化と後継者

  • 後継者がいない
  • 経営者本人と患者様の高齢化問題にどう対処すれば良いか方法が分からない

人材面

  • スタッフを採用したいのに応募者が集まらない
  • 採用してもすぐ辞める
  • 適切な人材の探し方・採用方法が分からない

ライバルの増加

  • 歯科医師会に未加入で新規開設する歯科医院が激増して影響力がなくなってきた
  • 競合の歯科が同一商圏に増加し患者様の取り合いになっている

集患

どのように新規の患者様を集めれば良いかマーケティング手法が分からない

2-2.経費としての支出が多い

ここからは、歯科が経営難となる要因について、経費面から考察します。

人件費

  • 人が採用できないので給与を上げた結果、人件費が経費を圧迫
  • ミスマッチによる早期退職で採用経費が増大する

材料費・仕入れ

  • 仕入れ先を開業時から変更せず、費用を意識せず購入している
  • 技工所を更新せず高い価格のまま注文・購入している

IT化

ITを導入しておらず紙台帳に頼り、業務工数の削減が進んでいない(無駄な業務をしている結果、残業代が発生する)

効率化

非効率な診療体制を続け、診療のトレンドや現在の保険制度に適していない診療を行い、経費が上昇している

設備投資

「何となく」新しい機器を借金して購入して放置し、コストを回収していない

3.歯科医院開業後の経営失敗事例

歯科医院開業後の経営失敗事例

経営の失敗事例を予習して解決策を練っておけば、トラブルが発生しても迅速な対処ができるため、リスクを最小限に抑えられるでしょう。歯科開業後のよくある失敗は、「人材」「外的要因」「内面的要因」の3パターンに分けられます。

3-1.事例①人材面

求人票を出したのに、数か月経っても応募者が来ず採用できないと悩む歯科医院は少なくありません。給与を大幅に上げたり、人手不足の焦りからマッチしていない人材を採用したり、経営的に望ましくない対応をしていませんか?

自院の風土に合っていないスタッフを採用すると、他のスタッフと相性が合わずチームワークが弱体化し、患者様とのトラブルにもつながりやすいです。人間関係に亀裂が入り、今まで頑張っていたスタッフが一気に数名退職し、採用経費が増加するケースもあります。人手不足により診療枠を減らした結果、売上が減少し、採用費も捻出できなくなるという負の連鎖を生みかねません。採用の失敗は経営を左右する大きな要因の1つです。

3-2.事例②外的要因

レセコンや設備機器の営業担当者に進言され、何となく「最新設備」を投入していませんか?買ったものの運用方法がわからず、使用せずに借金だけ毎月支払うのは資産の損失です。

歯科医師のネットワークが脆弱なため、情報が入らずコンサルタントを入れたのに、何にも変わらないと困っている歯科医院も存在します。費用対効果の薄いものに投資すると、スタッフに「無駄遣いをしている」「スタッフに還元していない」と不信感を持たれるきっかけになるでしょう。

3-3.事例③内面的要因

経営者の労務に関する知識不足も、経営を失敗させる要因です。残業代や有給などの労務管理が適当だと、スタッフとの労務問題に発展するリスクを高めます。万が一トラブルになれば、和解金や遅延損害金を上乗せした未払い残業代の支払いなど、金銭的な対応も求められます。内部通報に至った場合、労働基準監督署の立ち入り監査につながるかもしれません。

個人経営の歯科医師は医療行為者である以前に、経営者です。スタッフの労務管理に責任を負っています。労働法や社会保険法の知識を身に付け、職場環境の整備に取り組みましょう。

4.歯科医院に実際にかかる費用とは

歯科医院に実際にかかる費用とは

歯科医院の経営にはスタッフの人件費に加え、歯科材料や設備投資の返済などが必要です。本章では、各経費の適正な比率や人件費について、詳しく説明します。

4-1.経費

歯科医院の適正経費には地域差や売上規模もあり、持ち物件か賃貸物件かによっても変動しますが、内訳は概ね以下の通りです。

  1. 人件費       売上比:上限30%
  2. 家賃・物件ローン  売上比:約4~7%
  3. 光熱費・通信費   売上比:約1%以内
  4. 材料費       売上比:約5~10%
  5. 診療用消耗品費   売上比:約3~5%
  6. 技工料       売上比:約3%
  7. 福利厚生費     売上比:1%程度
  8. 採用経費      売上比:2%以内

平均的な数字ですが、売上比49%~59%が適正な経費と考えられており、粗利ベースで半分は利益になるよう配分しないと、経営は苦しくなります。特に、全体の中で最も多くの割合を占める人件費は、30%以下に抑えるのが望ましいでしょう。経営が苦しいクリニックでは、人件費率が高かったり、採用経費が高額になっていたりするケースが多い傾向にあります。仕入れが売上に伴わない場合もあるため、人件費や仕入れ額を見直せば黒字化する可能性が高いです。

4-2.衛生士などのスタッフの人件費

経費の3分の1近くが人件費による支出です。次に、年間医院収入7,600万円の同等規模・同等エリアで開業している歯科医院AとBを例に、人件費についてお話します。Aの歯科医院は適切な人件費を維持しており、反対にBは人件費が高額となっているケースです。人件費を見直す際の参考にしてみてください。

4-2-1.【A歯科医院】

  • チェア:5台
  • 人員:歯科医師1名(院長)、歯科衛生士3名、歯科助手1名、受付1名
  • 売上7,600万円
  • 経費:4,300万円(内返済1,000万円、利益2,300万円)
  1. 人件費:1,810万円(人件費率23%、院長給与は除外)
    歯科衛生士1人につき(26万円+福利費3万円)x3名=月額87万円(年間1,180万円※賞与含む)
    歯科助手・受付1人につき(20万円+福利費2.5万円)x2名=月額45万円(年間630万円※賞与含む)
  2. その他経費:2,500万円(年間採用経費50万円)

4-2-2.【B歯科医院】

  • チェア:5台
  • 人員:歯科医師1名(院長)、歯科衛生士3名、歯科助手2名(受付兼務)
  • 売上:7,600万円
  • 経費:5,270万円(内返済1,000万円、利益1,330万円)
  1. 人件費:2,570万円(人件費率33.4%、院長給与は除外)
    歯科衛生士1人につき(30.5万円+福利費4.3万円)x3名=月額105万円(年間1,490万円※賞与含む)
    歯科助手1人につき(23万円+福利費:3.2万円)x2名=月額53万円(年間760万円※賞与含む)
  2. その他経費:2,700万円(年間の採用経費300万円)

上記の2院を比較すると、年間利益に1,000万円の乖離があります。その原因は、人件費と採用経費です。同等エリアで同規模にもかかわらず、B院は採用に難があり、定着率も悪く、「人材に関する費用」が高額になっています。人件費が30%を超えると、年間の利益を圧迫することが分かります。

5.歯科医院の経営を安定的に行うにはどうすべきか

5.歯科医院の経営を安定的に行うにはどうすべきか

歯科医院の経費を削減し、経営を安定させるには、具体的にどのような取り組みを実施すれば良いのでしょうか。代表的な施策として、下記のようなものが挙げられます。

  1. 人材の定着率を改善(助成金の活用)
  1. 採用方法の見直し
  2. ミスマッチの防止(人材の見極め)
  3. 周囲の人件費トレンドを理解し無駄がないか再検討する
  4. 適切なコスト感覚を持つ

特に、「適切なコスト感覚を持つこと」は重要な要素の1つです。

以下に詳しくご紹介していきます。

5-1.コスト感覚を持った診療を行う

歯科診療では、歯科材料やグローブといったさまざまな資材を用います。費用の見直しを行うときは、購入する量や頻度が適切か洗い出しましょう。グローブやセメント、CR用のレジン、印象材など、歯科材は高額なものが多いです。コストカットが可能か、代替品はないか、業者の変更が必要かなどを検証してください。

次に、売上をアップさせるポイントを2つ取り上げました。

5-1-1.保険算定の適正化

適正に保険を算定できているか、現状の確認をしましょう。取りこぼしはないか、レセプトミスがないか、制度改正にあった診療ができているかをチェックするのが重要です。たとえ10点や50点であっても、漏れが発生したらその分だけ売上が下がってしまいます。ちりも積もれば山になることを意識し、毎月「赤本」で検証することをおすすめします。

5-1-2.自費のアップ

自費率アップはどの歯科医院にとっても、大きな課題と言えるでしょう。インプラントやマウスピース矯正を導入しているクリニックは増えています。しかし、ライバルが多く伸び悩むケースも珍しくありません。インプラントや矯正は専門知識の習得や経験を積むこと、設備投資などが必要となり、コストの回収には時間がかかります。

自費をアップさせる方法は各クリニックによってニーズが全く異なります。その点を十分に理解し「歯科医院の現状にあった手法」が何か見つけることから着手しましょう。

5-1-3.プロ―モーション活動を検討する

医院の経営を安定させる方法の1つに、プロモーション活動の促進が挙げられます。プロモーション活動の例を下記3つにまとめました。

  • 患者様から口コミで新規の患者様を紹介してもらえる仕組みを作る
  • 地域イベントに参加して、「院長」自らがクリニック周知のための活動を行う
  • ホームページやSNS、ブログを活用し情報発信をする

SNSは拡散力があり、上手く活用できれば自院を知らない方の目にも情報を届けることができます。ただし、運用開始からフォロワーの獲得までに一定の時間を要し、即効性が低い点に注意が必要です。

6.歯科医院開業後に最短で黒字化を実現するために必要なこと

6.歯科医院開業後に最短で黒字化を実現するために必要なこと

常に経営者としての「コスト感覚」を持つには、事業計画書や経営計画書を作成して数字を把握することが重要です。計画書の作成により、次に挙げる効果が期待できます。

  • 5年10年先の将来像をつかむ
  • 現状把握
  • 自分と得意と不得意を把握し、常に知識・技術更新に役立つ
  • 経営の進捗確認
  • 結果を振り返り、課題発見や改善へつなげる

ここまで、歯科が経営難になる原因や経営の失敗事例などをお話してきました。歯科医院の経営を安定させるには、労務管理や経費の見直しといった医療行為以外の知識・情報が不可欠です。しかし、歯科医師が1人で全ての対策を行うのは難しいかもしれません。

専門の知識・情報・ノウハウを持つ「歯科実務」に詳しい参謀と連携してはいかがでしょうか。経営について相談できる専門家を探している先生に、次の章で歯科経営パートナーを持つという視点をご紹介します。

7.歯科医院経営に困った際は歯科経営コンサルタントへ相談

7.歯科医院経営に困った際は歯科経営コンサルタントへ相談

歯科経営の相談をするなら、通常のコンサルタントでなく「歯科経営の実務に精通した経営コンサルタント」に依頼しましょう。税理士は税務だけ、社労士は労務、コンサルタントは経営支援に詳しいものの、歯科診療に関する知識は持っていません。

私たちCAキャリアは「チーム」による支援をご提供します。税務のプロ、労務のプロ、助成金のプロ、経営のプロ、歯科に関する事務のプロ、治療の知見を持つプロが在籍しています。歯科医院を運営するのに必要な実務のプロが、総合的にクリニック経営のサポートをいたします。

歯科経営コンサルタントに依頼するタイミングは、開業時がベストです。治療技術や歯科業界のノウハウはあっても、労務や税務を知っている歯科医師の方は少ないかもしれません。

歯科経営コンサルタントは開業時に使える助成金や補助金の情報を豊富に持っています。上手に助成金・補助金を活用できれば、開業資金の投資を最小限に抑え、最短で黒字化を目指すことも可能です。収益の伸び悩みを感じる前に参謀を見つけ、安定経営につなげましょう。

8.まとめ

8.まとめ

歯科の経営は個人プレーではなく、チームによって行うものだと考えます。その証拠に、平成20年度で10,197件だった歯科診療所の医療法人数が令和2年度では15,161件と1.5倍に増加しました。つまり、1人経営の限界を意味していると言えるでしょう。歯科業界はIT化、診療内容の煩雑化、人材マネジメントの複雑化、競争の激化が進み、多様なノウハウを必要とする時代に突入しています。

人口減少や高齢化による収益の減少がますます深刻となっていくでしょう。安定した経営を目指すには、専門家との連携が欠かせません。

クリニックの未来を切り開くために、「プロチーム」によるサポートを受け、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

記事内の参考情報:

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/08/dl/03.pdf
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/20_houkoku.html
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/23_houkoku_iryoukikan.pdf
https://dental.funaisoken.co.jp/method
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/23_houkoku_iryoukikan.pdf

記事の監修者


まるごと事務長 担当コンサルタント M

年間医院収入2億円 スタッフ数30名の現役事務長

人材採用、離職率改善、教育体制づくり、オペレーション改善、助成金活用によるコスト削減などを得意とし、訪問診療の立ち上げ・採算化まで、院長の右腕として経営面の実務を幅広く担っている