今まで様々な歯科医院をサポートさせていただいた中で、院長先生や奥様の共通の悩みとして、
- 集患対策
- キャンセル率
- 患者定着率
についてよくご相談がありました。
どのようにして「繁盛医院」「人気医院」を作るのか?これは一長一短にはいかないのは当然であり、即解決できる「処方箋」はないことを前提にお話しします。要はそれぞれの対策を「継続」することが遠回りに見えて一番の近道なのです。
私はご相談をお受けした際、集患対策もキャンセル率低減もスタッフ退職防止施策も全て「漢方薬」と同じく「コツコツ続けること」が何よりも重要であるとお伝えします。
その中で今日はキャンセル率の低下、定着率UPや集患対策の1つとなりえる「院内イベント」についてお話しします。
歯科医院でイベントを開催することのメリット
私が現役事務長として勤務している歯科医院では、開業当初より様々なイベントを実施しています。それは、イベントが以下において非常に重要な役割を果たしていると考えているからです。
- 新患の集患動線
- キャンセル・離脱・中断予防
- コミュニケーションの量と質の向上
まずは、集患動線についてお話しします。
歯科医院が新患を獲得するには、「web」「広告」「紹介」「口コミ」がありますね。例えば自院のHPやE-PARKなどの紹介サイトへの掲載、パンフレットや駅・道端への看板掲載、患者からの新患紹介があります。
駅チカや地方などの地理的要因ももちろん考慮しないといけませんが、どの歯科医院でも共通しているのは、患者からの「紹介」が実は一番安価で歯科医院にとってメリットが大きいことです。
現在歯科医院は全国に6万以上あると言われており、競合ひしめく中、ではどのようにして紹介を得るのでしょうか?
他院との違いは何か?特徴は?インプラント?マウスピース矯正?義歯?小児?様々なPR方法がありますが、一番「広告効果」があり「安価」で「他院との違い」を出せ、歯科医院として「継続できる」方法…。それは「患者向け院内イベント」だと思います。
今までの体験談、そして個人的な意見ではありますが、患者向け院内イベントはかなり重要な対策といえます。
例えば、
1月 → お正月お年玉くばり(中にお菓子引換券を入れたり)
2月 → バレンタインデー
3月 → ホワイトデー
4月 → 入学・入社イベント(入学した方・入社した方向け)
5月 → こどもの日、母の日
6月 → 父の日
7月 → 七夕
8月 → 夏祭り・花火大会
9月 → 十五夜
10月 → ハロウィン
11月 → 勤労感謝の日や七五三(対象者のみ)
12月 → クリスマス
1年の行事で有名なものだけも毎月何かしらありますね。それに合わせて年間計画を作り、患者さん向けに「季節」を感じてもらえるイベントを開催します。
例えば1月に「お年玉」をお配りします。他院では「していないこと」ですから患者さんとその仲間内の間では少し話題になりますよね。
ママ友同士の会話でもそうですが、子供の歯医者さん選びは意外に難しいものです。先生やクリニックとの相性、子供が嫌がるなどなど…。歯医者さん選びの中でもっともママが重要視するのは、webの情報ではなく「ママ友や知人からの直接的な情報」なのです。
そんな中、このようなイベントを開催していると、「そこに通う患者さんだけ」の特別なイベントですから「特別感」があり、子供達も楽しく通える歯医者さんと思ってもらえます。さらには口コミで勝手に広げてくれ、広告効果も絶大なのです。
しかも友人・知人等からの紹介は高確率で「キャンセル・離脱・中断」になりにくく、継続して通って貰えます。そして子供が安心できるなら「自分も」「旦那さんも」「両親も」「友達も」と、その輪はどんどん広がります。
実際、イベントを導入してからの新患獲得経路と以前の経路を調査した結果、ある医院のデータでは、
■チェア数:5台、1日平均43名来院
●イベント前
月新患平均40人集患→内訳:web20人、チラシ・広告12人、紹介4人、その他4人
定着率:60%(毎月24人定着、16人消滅)、全体キャンセル率10%(1日4人キャンセル)
●イベント開催後
月新患平均35人集患→内訳web7名、チラシ・広告9名、紹介18人、その他1人
定着率:83%(毎月29人定着8人消滅)全体キャンセル率6.5%(1日2.8人キャンセル)
となりました。
この数字からわかるのは、webは集患の有効的な手段といえるが、簡単に予約できる反面「簡単にキャンセルできる」ということです。
それは一時期問題になった飲食店の予約の無断キャンセル・当日キャンセルと同じことなのです。飲食店でも「紹介」で行ったお店の予約を「無断キャンセル」しにくいのと同じ原理といえます。
特に不特定多数の新患はそれだけ定着率が悪いのです。新患総数は減っても、定着率が良ければ大量の新患を必要としないともいえます。これはクリニック側にとっては非常にメリットが大きいと思います。
さて、この数字を他院の院長先生に話したところ、「うちは大人の患者を多く欲しいから意味がない」と言われました。しかしこんな数字もあります。
●イベント開催前(定着率:55% キャンセル率:11.2%)
大人新患→31名
子供新患→9名
※約半数の新患は1~2回の来院で消滅
●イベント開催後(定着率:71% キャンセル率:9%)
大人新患→18名・・・6か月経過後の大人の新患23名・・・1年後の大人の新患33名
子供新患→20名・・・6か月経過後の子供の新患17名・・・1年後の子供の新患19名
※イベント前に比べて1年単位で見ると大人の新患増加&定着率向上、キャンセル率も低下
これは何を意味するのでしょうか?
答えは単純です。家族間紹介や知人・友人からの紹介により子供が通う歯科に親も行く。そして家族で通う。という方が増えたのです。このルートを辿れば、希望の大人の患者さん増加に繋がることが数字で判明しました。
ではとりあえず子供ターゲットにイベントをすれば新患増加するのか?というとこれは間違いです。子供向けイベントをしたから、子供の新患に引っ張られて大人も増える訳ではありません。
大人も子供も分け隔てなく、1つのイベントをクリニック全体かつ患者さん全員を巻き込んだイベントにする必要があります。
「大人にも何かプレゼントしたり、参加してもらうのか?」との質問に対し答えは「YES」です。
理由はただ1つ。
「お返しの法則」を利用するためです。
少し話は逸れますが、ある宗教団体が「募金活動」を行いました。1週間活動して集まった募金は1000円でした。しかし目標は10万円。そこでその宗教団体はあることを考えました。
それは、「造花を1輪用意する」→「それを持って街頭に出て道行く人にプレゼントする」→「お返しに募金をしてくれる」というアイデアです。
造花は1つ10円程度のもので、受取った方は100円、500円と皆さんお金を入れてくれました。その結果、あっという間に目標額を上回る募金額を獲得できたというお話です。これこそ、「お返しの法則」なのです。
人は「何かしら受取るとお返しをしないといけないと考える」。例えば昔からの習慣で、結婚祝い・出産祝いなどに対し「半返し」といってお返しをしますよね。地方であれば近所の方に「おすそ分け」したら別の品物で「お返し」が返ってくる。などなど。
実は日本人の「お返し」は村社会から生まれた1つの文化なのです。それを「歯科で導入すること」=「イベント」なのです。
歯科医院でイベントを開催する際の注意点
高額にならないよう、一人当たりの予算をいくらにするのか?何人に配るのか?をまずは決めておきましょう。
①予算・期間
私のクリニックでも他院でも、1人当たりの予算を設計しています。
- プレゼント代 →100円以内
- イベント開催費 →100円以内(夏祭りやクリスマスは別途設計)
- 告知費用 →100円以内
- 期間は1イベント1日として当日来院する患者+20%分を用意
※例えば1日40名来院の場合は48名分を用意します。すると1イベントの予算は約15,000円となります。
Web広告で毎月数万円使ったり、患者紹介サイトで1患者で2,000円(20人集患すると4万円)使うことを考えるとかなり「安価」だと思いませんか?それを口コミで周囲に広げてもらえれば、非常に有効な広告宣伝になりますよね。
でもこのことは院長だけの胸に留めておいてくださいね。理由は②です。
②誰がするのか
スタッフ全員の協力が必要です。誰か1人で実践しても意味をなしません。スタッフ全員に「何故イベントをするのか」=「患者さんに喜んで貰いたい、季節を感じて貰いたい」等、理由を院長からスタッフへ説明し、院長が率先してイベントに参加する意識が必要です。
③どんなことをするのか
例えば、1月のお年玉イベントでは「お菓子引換券」を入れて再度1月中に来てもらう。来た際にお菓子をお渡しするだけでなく、次回の来院予約を書いた予約票をお渡ししてキャンセルを予防する。
2月ならバレンタインであえて「チョコ」と「歯ブラシ」をプレゼントして、次回来院時に「虫歯チェックをしっかりする」ことを伝え再来院を促す。
などなど、イベントは歯医者さんへ「定期的に行くこと」=当たり前。次回予約は「他の用事より優先して当たり前」を患者さんに植え付けることも目的の1つとします。
④継続
単発でイベントをしても「まったくの無意味」になります。1年2年と継続してイベントを行うことが絶対条件です。患者さんにも「継続診療」を促すならクリニックも「継続」することが必要です。
継続すると、それを楽しみに来院される患者さんが増加しますし、「イベントのないクリニック」と「イベントのあるクリニック」どっちを選択するか?といえば、当然通いなれた「イベントのあるクリニック」だと思います。
しかも「無茶な急患も減少する」「わがまま患者も減少する」という別の作用も生まれます。
⑤告知方法
色々な方法がありますが、あえて1つ挙げるなら原始的ですが「ハガキ」による案内は効果的ですね。
当然ハガキの「中身」もポイントになりますが、ハガキがなくなりつつある中であえて「ハガキ」を選ぶことで印象に残りやすくなります。一部は必ず「手書き」にするとより効果的でしょう。
しかしなんでもハガキを出せば良いものでもありません。1つ1つに戦略がありますのでその戦略に則った「ハガキ」が効果的でしょう。
更に年間イベントカレンダーをクリニックに掲示したり、イベント2週間前からインスタ・ツイッター等で告知したり、イベントの結果をアップするのも良いかもしれません。
ちなみに、ハガキ代も結構な負担になるのでは?とお思いでしょう。しかし「あることをする」とコストも安くすることが可能なのです。
イベント開催のポイント
さて、色々お話ししてきましたが、イベントの開催においては
- 院長が率先すること
- スタッフを巻き込むだけでなく、患者を巻き込む
- 年間計画を作って事前告知する
- お返しの法則を理解する
ことが重要なのです。
イベントは集患方法・集患内容・キャンセル率や定着率を変える有効なツールになります。
例えばあるクリニックでの話ですが、最近流行りの歯科医院「キャンセル予防・中断動画」、「ユーチューブ」や「インスタ」などを広告費を掛けて実践したり、来院患者さんへ「注意動画や説明動画」を観てもらう方法導入しましたが…
「まったく効果がない」もしくは「効果が目に見えない」状態でした。
そこで趣向を変えてイベントを開催したところ、「今までにない効果を実感できた」との声をいただきました。
私のクリニックでも一時、様々な動画制作を検討しましたが、患者さんには不評でした。確かにクリニック側はお金を投資すれば、動画は作れ、便利で、楽に患者さんに対し伝えることができると思います。
しかしそれは、伝えたと思っているだけで、患者さんには「伝わっていない」「聞いていない」「先生やスタッフから直接聞いていない」のと同じこと。動画などの便利ツールに頼るのは、患者さんとクリニックの関係性を希薄にするだけであまり意味をなしていないことに気が付いたのです。
この便利な時代に逆行しているのでは?と思われがちですが、それは誤解です。一番は、やはり「人対人」=コミュニケーションなのです。
よくコンサルティング会社は動画・webなどのツールを導入して集患に繋げることを提案します。しかしそれはあくまでも「便利ツール」であり、「主(しゅ)」ではありません。
歯科は口を触ります。触るということは、信頼関係があってはじめて成り立つという考えを忘れてはいけません。
ツールは信頼関係やコミュニケーションを取る為の「補助」なのです。ここまでお伝えしたことは、「信頼関係やコミュニケーション」を取るための「武器を導入すべき」というお話であり、「補助ツール」とは次元が異なります。
皆さんは自信をもって患者さんと「コミュニケーション」が取れていると言えますか?その患者さんのライフスタイルや趣味・趣向は知っていますか?家族構成や家族関係を知っていますか?
知っているなら「補助ツール」は有効に作用します。しかしキャンセル率が高い、定着率が悪いのは「コミュニケーション」が取れていない証拠なのです。
だからこそ、イベントを利用して患者さんとの関係性を向上させ、信頼関係を作ることがより重要だと思います。
記事の監修者
まるごと事務長 担当コンサルタント M
年間医院収入2億円 スタッフ数30名の現役事務長
人材採用、離職率改善、教育体制づくり、オペレーション改善、助成金活用によるコスト削減などを得意とし、訪問診療の立ち上げ・採算化まで、院長の右腕として経営面の実務を幅広く担っている