「キャンセルでせっかくの予約枠が無駄になっている…」
「キャンセル率を下げる効果的な方法を知りたい!」
このような悩みをお持ちではありませんか?キャンセルは売上減少だけでなく、機会損失やスタッフのモチベーション低下など、さまざまな悪影響を及ぼす深刻な問題です。
しかし、適切な対策を講じることで、キャンセル率を効果的に下げることができます。本記事では、今までの経験や実績を基に、キャンセル率を下げることがなぜ重要なのか、適正水準と目標設定、キャンセル率が下がらない理由を、歯科現場で院長の参謀役を務める現役の歯科事務長が解説します。
キャンセル率を下げることがなぜ重要なのか
キャンセルは、医院経営を揺るがす深刻な問題です。1日に数件のキャンセルでも1ヶ月、1年と積み重なれば、その損失は計り知れません。キャンセルがもたらす影響は売上減少にとどまらず、機会損失や時間損失など多岐にわたります。
①売上損失
たとえ1日に数件でも、積み重なれば医院経営を揺るがすほどの損失につながります。具体的な例を挙げながら、売上損失を見ていきましょう。
【ケース1】メンテナンス中心の歯科医院
1日に50人の患者が来院するメンテナンス中心の歯科医院を例に考えてみましょう。毎日15%(7.5人)のキャンセルが発生すると、1ヶ月(稼働日数20日)で150人もの患者がキャンセルすることになります。
1人あたりの単価を1000点とすると、月に15万点(150万円)の売上損失です。
【ケース2】治療中心の歯科医院
1日100人もの患者が来院する、回転率重視の歯科医院を例に考えてみましょう。治療中心で15分または10分刻みでアポイントを入れ、多くの患者を診ている設定です。このような歯科医院で毎日20%(20人)のキャンセルが発生すると、1ヶ月(稼働日数30日)で600人もの患者がキャンセルすることになります。
1人あたりの単価を1000点とすると、なんと月に60万点(600万円)もの売上損失です。
もちろん、これは極端な例ですが、現実的には1日50人のクリニックで1ヶ月に200万~300万円の売上損失が発生していると考えられます。
②機会損失
キャンセルによる損失は、売上だけではありません。1日7.5人のキャンセルが出ても「予約が埋まっているから問題ない」と考えるのは間違いです。
キャンセルされた枠に、たまたま都合がついた患者が入ることはありますが、本当に治療を必要としている患者の予約が取れない可能性があります。その日に予約が取れず、別日の予約を入れたとしても、その患者が本当に来院するかどうかは分かりません。
つまりキャンセルは、治療を必要とする患者を逃してしまう機会損失につながるのです。
③時間損失
3つ目は「時間損失」があります。これは、空き時間ができてしまうことです。
スタッフを雇っているのに患者が来なければ、その時間は無駄になってしまいます。たとえば、1回のメンテナンス時間を1時間と仮定し、1日に7人のキャンセルが発生した場合、7時間もの空き時間が生まれてしまいます。これは、フルタイムで働く歯科衛生士1人分の労働時間相当です。
アポイントに合わせて歯科衛生士を配置しているのにもかかわらず患者が来なければ、その人件費が無駄になってしまいます。毎月20万~30万円の給料を払っているのに働いてもらえないことになるのです。
治療の視点で考えても同様に考えられます。7時間は約30人の患者を診ることができる時間です。これは、歯科医師1人分の診療時間に相当します。歯科医師の人件費を考えると、さらに大きな損失となるでしょう。
キャンセル率の適正水準と目標設定
クリニックの規模や地域性によって異なりますが、歯科業界では10%が適正水準、5%が目標値とされています。1桁台であれば優秀なクリニックと言えるでしょう。
5%を目標値として設定している理由は、経営がキャンセル率に左右されにくい数字だと考えているからです。
たとえば、年商1億円のクリニックで5%のキャンセル率の場合、損失は500万円です。この程度の損失であれば、人材や設備などでカバーできます。
しかし、キャンセル率が10%を超えると、1000万円以上の損失となり、カバーが難しくなります。設備投資や受付体制の強化など、抜本的な対策が必要になってくるのです。
キャンセル率ゼロは不可能、現実的な目標設定を
どんなに努力してもキャンセル率をゼロにすることは不可能です。5%という目標値は、さまざまな要因を考慮した上で、現実的に目指すべき水準と言えるでしょう。
重要なのは、自院の規模や地域性、診療内容などを踏まえ、無理のない目標を設定し、継続的に改善努力を続けることです。
キャンセルの分類と種別
漠然とキャンセル率を考えるのではなく、「どんな種類のキャンセルが多いのか」「それはメンテナンスなのか治療なのか」を具体的に把握することで、より効果的な対策を立てられます。
キャンセルを「メンテナンス」と「治療」に分類する
キャンセル対策を検討する上で、まず重要なのはキャンセルを「メンテナンス」と「治療」に分類し、それぞれの比率を把握することです。
なぜなら、上記の「キャンセル率を下げることがなぜ重要なのか」の「①売上損失」でも解説した通り、メンテナンスと治療では、患者1人あたりの単価や診療時間が異なるため、売上・時間損失の大きさが大きく異なるからです。
漠然とキャンセル率を考えるのではなく、「どのようなキャンセルが多いのか」を把握し、それぞれに合わせた対策を立てる必要があります。
キャンセルの種別
実際にキャンセルの種類を理解している歯科医師は少ないのが現状です。
キャンセルには、大きく分けて以下の3種類があります。
- 事前連絡
- 当日連絡
- 無断キャンセル
事前連絡は、変更やほかの患者へ予約枠の振り替えが可能なので、比較的対応しやすいキャンセルです。しかし、当日連絡や無断キャンセルは、ほかの患者で穴埋めをするのが難しく、キャンセル率悪化の要因となります。
キャンセル率が下がらないと悩む歯科医院が多いですが、実は事前連絡は問題ではありません。同じ10%のキャンセル率でも当日連絡や無断キャンセルが多い場合は、医院の影響は大きくなります。
つまり、キャンセル対策において重要なのは、事前連絡ではなく、当日連絡や無断キャンセルをいかに減らすかという点です。そのためには、それぞれのキャンセルの種類を理解し、それぞれの対策を講じることが重要になります。
キャンセル理由の把握と追跡
キャンセルの分類と種類を把握した上で、次はキャンセル理由を分析する必要があります。
よくあるキャンセル理由は、以下の4つです。
- 忘れていた
- 用事
- 体調不良
- 仕事
これらの理由を伝える患者は、当日キャンセルや無断キャンセルの可能性が高い傾向にあります。一方、事前に連絡をしてくる患者は、「役所に行かなければならなくなった」「仕事の終わりが遅くなりそうなので別日に変更したい」など、具体的な理由を伝える傾向があります。
つまり、具体的なキャンセル理由を伝える患者は、事前に連絡をしてくれる可能性が高く、悪意はありません。
しかし、「忘れてた」「用事」など抽象的な理由で当日や無断キャンセルをする患者は、注意が必要です。このような患者は、再び予約を入れてもキャンセルする可能性が高いため、予約枠を効率的に活用するためにも適切な対応が必要となります。
そこで有効なのが、こまめなリマインド連絡です。2日前、3日前、そして当日にも電話などで連絡することで、キャンセルを防げます。
また、リマインド連絡は、キャンセル率を下げるだけでなく、患者を「追跡」するためにも役立ちます。たとえば、リマインド連絡をしても来院しない患者がいる場合、その患者には予約枠を割り当てる必要がないと判断できるでしょう。
つまり、追跡はキャンセル対策と予約システムのブラッシュアップの両方に役立つのです。
キャンセル率が下がらない3つの理由
歯科医院のキャンセル率が高いまま改善しないのには、以下の要因が考えられます。
- 理由1.キャンセルポリシーや医院の方針が明確でない
- 理由2.スタッフのコミュニケーション能力や患者への動機付けが不足している
- 理由3.キャンセルポリシーが徹底されていない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
理由1.キャンセルポリシーや医院の方針が明確でない
キャンセル率が下がらない理由として、まず挙げられるのがキャンセルポリシーや医院の方針が定まっていないことです。
ルールがなければスタッフは統一した対応ができず、患者への指導もできません。結果としてキャンセル率は上昇するでしょう。
理由2.スタッフのコミュニケーション能力や患者への動機付けが不足している
キャンセル率が下がらない原因は、必ずしもキャンセルポリシーがないことだけではありません。スタッフの説明力や提案力が不足していることも、大きな原因の一つです。
キャンセル率は、衛生士や歯科医師の説明力・提案力・指導力など、個人の能力によって患者の来院意欲は大きく変わります。
たとえば、「キャンセルポリシーがないけど、キャンセル率は低い」という医院もあるかもしれません。しかし、それはスタッフ個人の能力に依存しているだけで、そのスタッフが退職したらキャンセル率は再び上昇してしまいます。また、同じ医院でも歯科衛生士によってキャンセル率が異なるのはそのためです。
キャンセル率を下げるためには、医院としての方針を定めるだけでなく、スタッフの教育も必要です。スタッフが患者を惹きつける説明や提案ができるようになれば、キャンセル率は自然と下がっていくでしょう。
理由3.キャンセルポリシーが徹底されていない
「キャンセルポリシーはある」というだけで、実際にはスタッフに周知徹底されていなかったり、患者に説明されていなかったりするケースです。せっかくキャンセルポリシーを設けても、それが徹底されていなければ、キャンセル率の低減にはつながりません。
キャンセルポリシーは、そのルールをスタッフ全員が理解し、患者に説明することで初めて効果を発揮します。徹底されていないキャンセルポリシーは、存在しないも同然と言えるでしょう。
まとめ
歯科医院のキャンセル率が高いまま改善しないのには、必ず理由があります。
「キャンセルポリシーや医院の方針が明確でない」「スタッフのコミュニケーション能力や患者への動機付けが不足している」「キャンセルポリシーが徹底されていない」といった要因が考えられ、これらの要因を一つずつ解消していくことが重要になります。
後編では、具体的なキャンセル対策について解説します。ぜひ、そちらもご覧ください。
記事の監修者
まるごと事務長 担当コンサルタント M
年間医院収入2億円 スタッフ数30名の現役事務長
人材採用、離職率改善、教育体制づくり、オペレーション改善、助成金活用によるコスト削減などを得意とし、訪問診療の立ち上げ・採算化まで、院長の右腕として経営面の実務を幅広く担っている