受付の対応次第で歯科医院の経営は大きく変わります。患者満足度はもちろん、キャンセル率や集患にまで影響を与える、まさに歯科医院の「最重要ポジション」です。本記事では、歯科医院にとって受付が重要な理由、受付スタッフに求められるスキルなどについて、歯科現場で院長の参謀役を務める現役の歯科事務長が詳しく解説します。
院長先生はもちろんのこと、受付スタッフのモチベーションが上がらないとお悩みの事務長さん、そしてこれから受付業務に携わる方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
多くの歯科医院が受付を重視していない背景と理由
多くの歯科医院では、受付業務を軽視していますが、それは大きな間違いです。受付は患者満足度や医院の評判を大きく左右する重要な役割を担っています。
受付は「非生産部門」という誤解
多くの歯科医院は受付の重要性を軽視している傾向にあります。その理由としては、受付業務が診療行為に直接関与せず、点数算定につながらない「非生産部門」と捉えられていることが挙げられます。
院長経験の不足
院長自身が受付業務を経験したことがない場合が多く、具体的な業務内容を十分に理解していないことも一因となっています。
受付は医院の「顔」であることを理解していない
多くの歯科医師は、治療の質だけで評価が決まると考えられがちです。しかし実際は、受付スタッフの対応や態度に関する口コミが多く、それが歯科医院全体の評価に大きく影響しています。
つまり、受付は歯科医院の「顔」であり、その対応が患者の満足度、ひいては医院の評判を左右する重要な要素なのです。受付が治療に影響を与えないという考えは、根本的に間違っていると言えます。
受付が歯科医院の経営にとって重要な5つの理由
受付は歯科医院の経営において重要な理由は以下の通りです。
- 理由1.患者満足度と口コミ評価の向上
- 理由2.患者との信頼関係構築とキャンセル率の低下
- 理由3.生産部門としての役割
- 理由4.患者情報の事前収集と把握による個別対応
- 理由5.集患ポータルサイトに頼らない集患
それぞれ詳しく解説します。
理由1.患者満足度と口コミ評価の向上
患者は、歯科医院を選ぶ際にGoogleの口コミを参考にします。いくらホームページが魅力的でもGoogleの口コミの評価が低ければ、そもそも選択肢から外されてしまう可能性が高いです。
たとえば、陰気な雰囲気の受付や冷たい対応は、患者に不快な思いをさせ、医院全体の評価を下げてしまいます。逆に、明るく丁寧な対応や患者一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションは患者満足度を高め、医院のファンになってもらうことに繋がります。
口コミ評価が高く人気のある歯科医院は、必ずと言っていいほど受付業務を重視しているのです。
理由2.患者との信頼関係構築とキャンセル率の低下
優秀な受付スタッフは、患者との関係性を築くのが非常に上手です。患者のプライベートな情報まで把握し、親身になって話を聞くことで信頼を勝ち得ています。
さらに日々のコミュニケーションの中から、キャンセルリスクの高い患者を把握しています。そして、予約日前に「ご予約が近づいていますが、ご都合はいかがでしょうか?お待ちしております。」といった電話をかけることで、キャンセルを未然に防ぐことができるのです。1回のキャンセルで約1000点の損失と考えると、その影響は非常に大きいと言えるでしょう。
理由3.生産部門としての役割
受付業務のコスト面について考えてみましょう。多くの歯科医院では、未だに現金の計算を手作業で行っています。しかし、これを自動化することでカルテ整理や歯ブラシ、販売グッズの整理など、今まで手が回らなかった業務に取り組めます。
さらに重要なのは、患者とのコミュニケーションに多くの時間を割けるようになる点です。
患者との会話の中で、「歯ブラシは買わなくて大丈夫ですか?」「処方された歯磨き粉はありますか?」といった会話から物品販売につなげられます。
このように、患者に寄り添いながら物品を販売してくれる受付スタッフは、まさに「最強のエース受付」と言えるでしょう。
受付業務を効率化し、空いた時間を有効活用することでコスト削減だけでなく、収益向上にも貢献できる「生産部門」へと変わるのです。
理由4.患者情報の事前収集と把握による個別対応
優秀な受付スタッフは、患者の顔色を見て「あれ?今日はいつもと違うな」と感じたり、久しぶりの患者には「お久しぶりです。最近の健康状態に変化はありませんか?お薬手帳を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」と声をかけることができます。
心臓病の薬を飲んでいる、高血圧の薬を飲んでいるなど、事前にその情報を歯科医師に伝えたり、血圧を測るなど、患者の状態を把握することで診療をスムーズに進められるでしょう。
病歴や薬の情報だけでなく、患者との何気ない会話の中から将来的なニーズを汲み取ることもできます。たとえば、「そろそろ子どもの歯の検診を考えている」という話を聞けば、「お子様のご予約も取っておきましょうか?」と提案し、将来的な来院につなげられます。
患者の人柄や家族構成、さらには歯科医師や衛生士との相性まで把握することで、よりパーソナルな対応が可能になるのです。
理由5.集患ポータルサイトに頼らない集患
とある歯科医院の事例では、EPARKなどの集患ポータルサイトの利用を中止したにもかかわらず、患者数が増加するという結果が得られました。
その背景は、優秀な受付スタッフの存在です。親身な対応と丁寧なコミュニケーションで患者との信頼関係を築き上げ、満足した患者が友人や家族に医院を紹介するなど、口コミによる集患効果が期待以上に高まりました。
その結果、EPARKを中止しても患者数は減らず、むしろ増加したのです。つまり、優秀な受付スタッフがいれば集患ポータルサイトに頼らなくても、安定した集患が可能になるということです。
しかし、多くの歯科医師は、このような受付スタッフの貢献を理解していません。「手を動かした者の手柄だ」という考え方が根強く、受付スタッフの重要性を軽視しがちです。受付が別の人物に変わった途端、新患数やキャンセル率が悪化して受付の貢献度に気付かされる先生も多いです。
受付スタッフがいかに集患に貢献しているかを理解しなければ、歯科医院の成長は望めません。
受付の人員配置について
一般的に患者数が50人を超えたら受付スタッフを1人配置し、50人増えるごとに1人ずつ増やしていくという目安があります。つまり、1日に100人の患者が来院するクリニックであれば、2人の受付スタッフが必要です。
しかし、これはあくまで能力のある受付スタッフを想定したケース。患者とのコミュニケーションを重視したり、付加価値の高いサービスを提供しようとする場合は、より多くのスタッフが必要になります。
人数は「質」と「効率」で決まる
歯科医院の受付スタッフの人数は、来院患者数だけで決まるわけではありません。以下の要素を考慮して人数を決定する必要があります。
- 治療とメンテナンス患者の比率
- 患者層
- 設備
- レセコン操作及び入力の有無
1.治療とメンテナンス患者の比率
人員配置を考える際に重要なのが、メンテナンスと治療の比率です。メンテナンス比率が高い場合は、患者1人あたりの対応時間が長くなるため、受付スタッフの人数は少なくて済みます。たとえば、メンテナンス比率が6対4であれば、50人の患者に対して1人の受付スタッフで対応できます。
しかし、治療の比率が高い場合は、患者1人あたりの対応時間が短くなるため、より多くの受付スタッフが必要です。メンテナンスと治療の比率が5対5の場合は、40人の患者に対して1人の受付スタッフが必要となるでしょう。
ほとんどの歯科医院では、計算に基づいて受付の人員配置を行っていません。そのため、受付スタッフの人数が多すぎて無駄が生じたり、逆に少なすぎて受付スタッフの負担が大きくなっているのです。
2.来院人数・患者層
来院患者数に加えて、患者層も重要な要素です。たとえば、1日に70人の患者が来院する場合でも、そのうち3割以上が小児であれば、受付スタッフを2人配置する必要があるかもしれません。
なぜなら保育士がいない歯科医院では、受付が子どもの面倒を見ることになるため、より多くのスタッフが必要になるからです。
3.設備
受付の負担を軽減する設備が整っていれば、少ない人数でも対応できるようになります。
たとえば、現金の受け渡しは自動精算機を導入することで効率化できます。予約システムも、オンラインシステムを導入することで、受付スタッフの負担を軽減することが可能です。
また、支払い方法も現金だけでなく、クレジットカードや電子マネー、QRコード決済など、様々な支払い方法に対応することで、会計処理を迅速に行うことができます。
これらの設備が充実していれば、1日に80人の患者が来院する場合でも2人の受付スタッフで対応できるでしょう。子どもが多い場合でも設備が整っていれば、100人の患者に対して2人の受付スタッフで対応できる可能性もあります。
4.レセコン操作及び入力の有無
受付スタッフの人員配置を考える際には、レセコンの操作も考慮する必要があります。
歯科医師がすべての入力作業を完了させる場合、受付スタッフの負担は比較的軽くなりますが、受付スタッフが入力を担当する場合は、多くの人員が必要です。
闇雲に受付スタッフを増やすのではなく、それぞれの歯科医院に合った最適な人数を計算することが重要です。
受付スタッフの対応がキャンセル率を左右する
受付スタッフの対応は、歯科医院のキャンセル率を大きく左右します。特に、以下の4つの要素が重要です。
- 患者との信頼関係
- キャンセルリスクの高い患者への事前連絡
- 患者の状況に合わせたアポ調整の技量
- キャンセル枠への迅速な対応
患者との信頼関係
受付スタッフと患者の間に信頼関係が構築されていれば、キャンセル率は低下します。
飲食店を例に考えてみましょう。常連客はお店との関係性を大切にしているため、予約をキャンセルすることはほとんどありません。一方、インターネット予約など、関係性が希薄なケースではキャンセルが発生しやすくなります。
これは歯科医院でも同じことが言えます。受付スタッフと患者の関係性が深まれば深まるほど、キャンセル率は自然と低下していくのです。
キャンセルリスクの高い患者への事前連絡
受付スタッフは日々の業務を通じて、予約状況や過去のキャンセル履歴などから、キャンセルリスクの高い患者さんを把握できます。
そのような患者さんには、予約日前にリマインドの電話をかけることで、キャンセルを防ぐことができます。着信履歴が残るだけでも、「明日歯医者だった!」と思い出して来院してくれる患者も多いです。
患者の状況に合わせたアポ調整の技量
キャンセル率を下げる3つ目の要素は、受付スタッフのアポイント調整能力です。これは、キャンセルリスクの高い患者への対応と、急なキャンセル発生時の対応の2つに分けられます。
まず、キャンセルリスクの高い患者に対しては、その人の性格や都合の良い時間帯などを考慮して、アポイントを調整します。たとえば、忘れっぽい人には、予約日時の直前にリマインドの連絡を入れたり、忙しい人には時間に余裕のある日時に予約を入れるなどの工夫が必要です。
キャンセル枠への迅速な対応
急なキャンセルは歯科医院にとって痛手です。しかし、優秀な受付スタッフはキャンセルが発生した場合、すぐにほかの患者に連絡を取り、空いた予約枠を埋めていきます。
これは、患者一人ひとりの状況を把握し、誰に連絡すれば来院してもらえるかを瞬時に判断する能力が求められます。
このような対応は、受付スタッフの経験とスキルが問われる場面です。一般的に経験豊富な受付スタッフほど、キャンセル率を効果的に下げることができます。
まとめ
受付は、歯科医院の「顔」であり、患者満足度やキャンセル率、集患にまで影響を与える最重要ポジションです。受付業務を軽視せず、優秀な受付スタッフを育成し、適切な人員配置を行うことで、歯科医院はさらなる成長を遂げることができるでしょう。
後編では、受付スタッフに求められるスキル、受付業務の効率化が医院の収益アップにつながる理由などについて解説します。
記事の監修者
まるごと事務長 担当コンサルタント M
年間医院収入2億円 スタッフ数30名の現役事務長
人材採用、離職率改善、教育体制づくり、オペレーション改善、助成金活用によるコスト削減などを得意とし、訪問診療の立ち上げ・採算化まで、院長の右腕として経営面の実務を幅広く担っている