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予防歯科への大転換時代 待ったなし!3 クリニック経営上のメリットとは

予防歯科への大転換時代 待ったなし!3 クリニック経営上のメリットとは

前々回と前回で、予防歯科の重要性と歯科医院の体制変革について解説しました。予防型に転換すると経営に大きなメリットが生まれます。

本記事では、歯科現場で院長の参謀役を務める現役の歯科事務長の視点から、日々の業務で直接体験している変革の効果を具体的な数字や事実と共に紹介。

予防型歯科医院への転換が実際にどのような経済的利益をもたらすのかを、現場の事例を交えて深掘りします。

ーメリット①SRTを含めた歯周治療とメンテナンスの増加

予防歯科への大転換時代 待ったなし!3 クリニック経営上のメリットとは

あるクリニックでは、2024年3月の実績で過去最高の売上を達成しました。従来は診療の8割が治療中心でしたが、現在は予防・メンテナンスを中心にシフトしています。治療の割合が35%まで低下する一方で、予防・メンテナンスが65%を占めるようになりました。

そして以前は100人の患者が来院していたのに対し、現在は約70人と数が減少していますが、それでも売上が増加しているのです。これは、予防型転換するうえでの、クリニックにとって大きなメリットをもたらしていることを示しています。

ただし、治療のキャンセルが多いことが課題として残っており、今後この問題の解決に向けて取り組む必要があります。

ーメリット②紹介と口コミの増加

兵庫県にある歯科医院は、上場企業の幹部や社長が通院することで知られています。このクリニックに初めて社長が足を運んだきっかけは、部下からの紹介だったそうです。

社長が来院するようになり、そのつながりからさらに多くの経営者がこの歯科医院を訪れるようになりました。実際にクリニックの初診アンケートにも、他の社長の名前が書かれており、社長又は社員同士の紹介がどんどんと広がっている様子が伺えます。繋がりで紹介を受けた方はポジティブに診療して頂けるだけでなく、直接的紹介の他、良質な口コミも投稿して頂きやすい傾向にあります。

この流れは、予防型へのシフトが大きな影響を及ぼしています。予防は、健康上の潜在的な問題を早期に発見し、重症化を未然に防ぐことが可能です。ただ治療する場所ではなく、健康維持のパートナーとして真剣に考えてくれる場所と認識してもらえると、患者は定期的に歯科医院を訪れることが負担ではなくなるのです。

定期的に通うことで不安なく、そして安心してメンテナンスを含めた予防処置が受けられます。予防重視のアプローチにより、家族や知人だけでなく、広範なネットワークを通じて新しい患者が訪れるようになります。こうした口コミは、インターネット上の評価と互角に戦うほどの力を持っているのです。

ーメリット③キャンセル率の減少

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予防歯科型クリニックへの転換は、キャンセル率の減少にもつながります。紹介された患者は、紹介者への信頼と責任感から、軽はずみなキャンセルを避ける傾向があります。知り合いに「よくキャンセルする」と悪い評判が立つことを恐れるからです。

たとえば、1日の患者数が50人の歯科医院の場合、毎日20%のキャンセルが発生(1日10人)するとします。治療の平均点数が1人あたり1,000点とすると、1日10,000点の損失となります。この歯科医院が月20日診療を行っているとすれば、金額に換算して月200万円の損失です。

キャンセルをゼロにすることはできません。しかし、キャンセル率を20%から10%に下げることができれば、月間で約100万円、年間で約1200万円の売上増が見込めます。

このように、キャンセル率の管理と適正化はクリニックにとって大きな収益改善又は強化ポイントとなります。予防型に転換することで患者層の再構築が進み、キャンセルが減少し、結果的に高収益が期待できるようになるわけです。

ーメリット④患者の質と患者満足度の向上

患者層が変わるにつれて、患者の質と患者満足度も向上します。意識が高い患者は、治療に対して具体的な希望や期待を持っており、それを明確に伝えられます。治療内容に対しても明確な意思を持って話し合いができるため、クリニック側との齟齬が生まれにくいです。

たとえば、前装冠を入れる場合、天然歯と色を合わせるのが一般的ですが、素材の性質上色が合わないことがあります。「なんでもいいから治してほしい」という患者は、「こんな色になるとは思わなかった」「こんなの納得いかない」と不満を口にすることがあります。

しかし、患者さんの層が変わると、治療前の説明をしっかりと聞いて理解しており、治療後の「こんなはずではなかった」「予想していなかった結果だ」という不満が生じることが少なくなるのです。

また、そういった患者はしっかりと時間を取って、診療に集中しています。自分の口腔衛生に対して真剣に取り組んでおり、万一歯が悪化したときも「自分がしっかりケアしていなかった」と認める姿勢を見せるのです。

このような患者は、治療方法について詳しく質問し、自分にとって最良の選択ができます。歯科医師の提案と患者の希望が一致することで、より高い患者満足度が実現できるのです。また、一致した治療計画は、患者に十分な納得感と信頼感を与え、「自分のことを考えてくれる歯医者さん」と感じてもらえる大きな理由になります。この歯科医師と患者の信頼関係が自費診療にも大きく影響し、自費売上が自然と上昇する結果にもつながります。ある歯科医院では予防歯科に転換して自費売上が月100万円単位で増加したクリニックも存在します。

良い経験をしたら、その喜びを周囲の大切な人たちにも伝えたくなるものです。このような経験をした患者は、友達や恋人、家族を紹介しようかと考えます。こうして新たな患者を獲得できれば、経営上のメリットも大きくなります。

一方で注意が必要なのが、単に歯科知識が豊富な「デンタルIQ高め」の患者です。情報だけは知っていますが、その情報がどのように実際の治療に影響を与えるかという点で歯科医医師との認識に食い違いが生じます。

そうした齟齬を防ぐには、歯科医師と患者が同じ目線に立ち、お互いに理解を深めながら納得のいく診療を進めることです。予防型への移行を進めるうえで、このようなコミュニケーションが極めて重要になると考えられます。

ーメリット⑤衛生士の離職率の低下

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予防型に転換することで、衛生士の離職率も低下します。衛生士が主役として働ける環境を提供することで、やりがいを感じ、長く勤務するようになるからです。

特に、担当制を導入しているクリニックでは、この傾向が顕著です。とある歯科医院では、担当制導入前は半年~1年で衛生士が辞めることが多かったのに対し、担当制導入後の離職率はほぼゼロになったという事例もあります。

求人に関する数100万円単位のコスト削減はもちろんのこと、スタッフの質の維持・向上を通じて全体的なサービスの質も高まります。

ーメリット⑥安定した収益基盤の確立

メンテナンス中心の診療に移行することで、治療件数を抑えつつ、定期的に来院する患者を増やせます。そうすれば、リピーター患者から継続的に収益を得られる「ストック収入」の構築が可能です。

具体的には、前月の予約状況から翌月の売上の半分程度を予測できるようになります。こうした見通しが立てられれば、的確な経営計画の立案が可能になるでしょう。

さらに、収益の大部分がメンテナンス収入で占められれば、治療への依存度が下がります。歯科医師の手技に頼らずとも歯科医院全体が効率的に機能し、安定した収益を上げられるようになるのです。すると勤務医採用又は勤務医への依存度も減らすことが可能となります。勤務医不足や歯科医師の治療件数に売上が振り回されることなく収益基盤を確保する事ができるようになります。

ー予防型へ移行する際に歯科医師が直面する課題と外部支援の活用法

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多くの歯科医師が予防型への転換を希望していますが、具体的に何から始めたらいいのかわからないという問題に直面しています。

実際、自院の現状を正確に把握していないために、どこから手を付ければ効果的か判断がつかないのです。これは、歯科医師が経営学を専門に学んでいるわけではないため、経営戦略の立案が難しいことに起因しています。

この課題を解決するには、まず自院の強み弱みを客観的に分析することです。大企業が経営戦略室を持つように、歯科医院でも外部の専門家や参謀役(事務長など)の支援を仰ぐことをおすすめします。

院長一人で全てを解決しようとするのではなく、歯科に精通した現場を理解しているプロの客観的な分析を活用して、現状を正しく理解することが大切です。そのうえで、専門家からの適切なアドバイスを得ながら、具体的な転換計画を立案していくことが賢明でしょう。

もし経営において不安があるならば、プロの分析を受けてみることです。客観的な分析を通じて、自院の現状を理解し、改善点を明確にできます。

院長自身もその分析に参加し、結果を確認しながら必要な対策を一緒に立案していくことが重要です。歯科医師と歯科経営のプロの緊密な連携により、現実的で実行力のある対策を打ち立てられるはずです。

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記事の監修者


まるごと事務長 担当コンサルタント M

年間医院収入2億円 スタッフ数30名の現役事務長

人材採用、離職率改善、教育体制づくり、オペレーション改善、助成金活用によるコスト削減などを得意とし、訪問診療の立ち上げ・採算化まで、院長の右腕として経営面の実務を幅広く担っている